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「はい、おみやげ!」 いらっしゃい、とドアを開けると入ってくるなり握っていたそれを押し付けられた。スーパーの袋を握らされた。お邪魔します、と言い掛けて、ただいまと答える彼女を促して招き入れると、おかえりと言って鍵を掛けた。その一連の動きにさして疑問も違和感もなく、次からはおかえり、に言い換えてみようと決め、背中の後ろには上機嫌のがいた。 「ゴーヤと豆腐は買ってきたの」 人差し指と中指で挟み、ひらひらとさせている紙を受け取る。受け取ってから渡された袋を覗き込むと確かに、ゴーヤの緑色があった。小さく折りたたまれた紙を開くとレシピが印刷された紙だった。これを頼りに買い物をしてきたのだろう、初心者向けに作られたものか丁寧にゴーヤの下処理まで載っている。 「これ、が作るの?」 目はまだ作り方2、を追いつつも、視界の端で頷いている姿が見えた。順を追って最後まで目を通すと、隅に小さな文字で印刷時間が刻まれていた。マルフタフタサン。昨日なのか今日なのか、どちらで表すと適切なのか迷う時間だった。そんな時間に調べてわざわざプリントアウトまでして、計画を立てていたのかと思うと自然と頬が緩んでしまう。 「ねえ、それ、本場の作り方と一緒?」 そんな人の気を知ってか知らずか、待ち切れないと言わんばかりにが横から覗き込んできた。 「そうだね、だいたいは一緒」 もう一度上から『だいたいは一緒』だと確認しようと視線を動かすと、小さい文字で書き加えられた数字に気付いた。材料の横の空白に並ぶ文字は、まぎれもないのもの。それはきっちりと材料を半分に割って計算したグラム数に直されていた。材料の表の一番上には四人分、と書かれてあった。指をずらして、に見えるように指した。 「二人分、なんだ?」 「そう、高嶺さんと、わたし、でふたりぶん」 指差す代わりなのか、シャツの袖を引かれた。つられて視線を下げると、手書きの数字に気づいたことが嬉しいのか、それとも照れくさいのか。おそらくはそのどちらもで、笑った顔と目が合った。 「でもね、いっぱい食べると思って結局四人分買ってきた」 ほら、と大きなゴーヤを見せられた。まだ私が握ったままの袋の中から取り出したそれを自慢げに見せてくれた。 「でもね、高嶺さんに教えてもらった方がいいのかなって」 隅々まで目を通した紙を奪い取られてしまった。渡しておいて、奪い取るなんてどうしたものかと思い、思っただけでその次の言葉を窺っていた。 「作り方、教えてくれる?」 私が作れる、とは一言も言っていないのに。もちろんに作って披露したこともないのに、当然作れる前提で話を進められている。それは確かに間違ってはいなかったし、不都合もなかったのだか。そのことを指摘しようかと思い、少し迷ってそれは後にとって置こうと思った。今から作って出来上がって、それから食べながらの話題にしようか。 「せんせーよろしくお願いします!」 「、それはなに?」 「ふくたいちょーの方が良かった?」 妙な呼称で呼ばれ、指摘するとさらに悪化した。なんと答えようか曖昧な笑みを作り探していると、返事が聞こえないのを肯定の意味に受け取ったのか、 「高嶺副隊長、お願いします!」 ゴーヤの握った右手、ではなく空いた左手で敬礼された。それも勢い良く上げた手は額に当たってぺち、と間抜けな音をあげた。それから判断すると、間違いなく彼女は機嫌が良いのだろう。楽しそうだね、と言いそうになってやめた。 「・・・じゃあ手、洗おうか」 台所にふたり、立つととても狭かった。 (07.06.16) |