武山夫妻のあれこれ
ここは 武山直美+武山すみれ が実は夫婦だったりしたらとても楽しいのに!
というコメの武山家の関係が発覚前に捏造した趣味に片寄ったページです。
双子で兄妹で確定した武山家の2人ですが、
でもやっぱり夫婦はそれはそれでとても楽しいので
捨てきれない楽しさにパラレルでもいいよね、と
綴ってみました『すみれさんと直美くん』の
そんな2人のあれこれ。
龍精丸のあれこれ / スーパーのあれこれ / 展示訓練のあれこれ /
マニュキュアのあれこれ 07.06.07 /
*マニュキュアのあれこれ
  
「すみれさん、どしたの?」
カチャカチャと立てた音が突然止んだのだから、気になってしまったのだろうか。音を立てている時こそ声を掛けられそうだったのに、あえてそれが止まってからで。それが彼らしいと思ってしまった。その事実に長い時間を共有しているのだなとぼんやりと思った。
「ねえ、直美くん、」
小さな色とりどりの小瓶を音を立てながら並べていた。いつの間にか増えすぎたマニュキュアを整理するために、ひとつひとつ手にとって、色を確かめて、蓋を開けて。使う色、好きな色、好きだった色、使わない色を選り分けてガラスの音を立てていた。
「この色すき?」
その中のひとつを手に取ったときに、あ、と思わず声を上げてしまった。小さく、人には聞き取れないような声で、でも確かに口から零れてしまった声。聞こえたのは私だけ、のはずなのに彼に聞かれてしまったような気がした。
その一色だけわざわざ光にかざし、見上げる形で仰いで見る。せわしなく鳴っていた音が止まって私の目も留まった。光を受けてきらきらと反射する淡いピンク色。彼の位置からも見えるようにすこし、動かしてみせた。
「うん、好き」
「さすがあたし」
返ってきた答えに満足して笑い返した。
「なにが?」
するとつられたように彼も笑った。それを見てまた、満足する私がいた。
「初、デート、の時の記念品?」
疑問符をつけて言葉を切って、声にすると予想以上に恥ずかしい。そのまま流暢に言えないぐらい照れくさいものがあったのに、口にするとそれさえも無駄な努力だったようだ。その色で思い出すのは、浮き立つ気持ちで明日を思い浮かべ、まだあやふやな関係だった彼の顔を思い浮かべて。似合うかな、なんて自分らしくもない可愛らしい感情を抱いていたのだ。あの時は。
それはもうずいぶんと昔のことになってしまったけれども。まだ付き合っていると答えられない間だった頃の色を見て、その時の空気を思い出してしまった。思い出して照れ隠しにもう一度笑っておいた。
一本だけ他の色と距離を置いて立ててみる。コト、と硬い、けれども軽い音が鳴った。それは他のどれよりも彼に近い位置となった。ふたつの指で摘んで持ち上げられた小さなピンクが彼の手の中にある。興味深そうに、手にとって、蓋を回していた。『思い出の色』が少しだけ着いた刷毛を眺めていた。きっとマニュキュア特有のあの匂いも一緒に蓋から零れ出ただろう。
「じゃあ捨てないでとって置こう」
「もう乾いてるのに?使えないよ?」
「じゃあ同じの買うまでとって置こう」
「きっともうこの色、廃盤だよ」
「じゃあ新しい色買いに行こう」
「あら、めずらしい」
そしてその新しい色を見て、何年後かにこの日を思い出すのだ。『初デートの思い出』を思い出して若かったなぁと思った日を。きっと変わらずその日にも隣には彼が居るのだろう。なんの根拠もないのに確信だけはあった。
「じゃあもっと高いの、買ってもらっちゃおうかな」
私が今日を思い出したら、そしてもし彼も覚えていたのなら、その時もう一度、新しいマニュキュアをねだってみようか。
彼の手の中から取り戻した色を左の小指に塗ってみた。乾いていてムラができて綺麗には塗れなかった。
(07.06.07)
*展示訓練のあれこれ
  
「すみれさん、それこの前の服?」
届いてからそのままにしてあったジャケットを取り出していた。まだ透明の袋に入ったままで、もちろんタグもついていた。明日の準備にと今更ハンガーに通し、しつけ糸とタグを切ろうとはさみを取ってと後ろの彼に向かって声を掛けた。
「そう、『セクシー』『OL』なの」
それは通販で買ったその服のカテゴリー。注文する時に画面越しに彼にも見せていた事も一緒に思い出した。見せた、というよりかは覗かれた、といったほうが正しい表現かもしれないが。彼はその時に見たこのジャケットを覚えていたようだった。
「『エビちゃん』じゃなかったけ?」
服だけではなく検索ワードまで覚えていた。自分のことではないのに、私も忘れていたことなのに、覚えていた。パチンとタグを切ると音が鳴った。
「似合う?」
ジャケットを当てて振り返る。すると予想通りで期待通りの首を縦に振る彼が居た。その一瞬後に止まり、何か思い当たったのかみるみる表情が変わっていく。見ていて本当に判りやすい、と何度目かに思ってしまった。
「…それ着てどこ行くの?」
それは自然な問いだろう。私は前日に服を準備しておくことなど滅多にないのだから。
「…兵悟に会いに?」
少しの悪戯心に酷く遠まわしな表現を選んでみた。事実ではあるが真実では決してない。すると予想通りで期待通りの誤解した表情がそこにあった。
「もーそんな顔しないの!」
それが楽しくて可笑しくて、すこし嬉しくて、私よりも背の高い彼の頭を手を伸ばしてかき混ぜた。駄々を捏ねた子供にも、きっと私は同じ対応をするだろう。そう思うと自然と頬が緩んでしまう。
「特殊救難隊の展示訓練の広報のお仕事だから!」
一番簡潔な言葉を選んでみた。彼が納得するように、誤解なく伝わるように。何か言いたそうな顔に変わり、次に来る非難の言葉をどう受け返そうかと考えようとしていた。
「すみれさん、」
それなのに予想と反し、また表情を変えて名を呼ばれた。伸ばしていた手を下ろす。
「ん?」
見上げたままで首を少しだけ右に傾ける。
「来年も広報やっていて。来年は俺が行くから」
一年後の約束に、真剣な顔をした彼。
「うん、待ってるよ」
もう一度腕を上げて、彼のまっすぐな髪を撫でた。
(07.04.04)
*スーパーのあれこれ
  
「すみれさん、ここじゃないの?」
そこが目的地だと思っていた。看板の前を通り過ぎる。特別な予定もなにもない日に、窓越しに見上げる空は潔いくらい青かった。それが無性に勿体無いと思ってしまい、思い始めると行動せずにはいられず。折角だからと外に踏み出したのはすこし前のことだった。
「今日はもうちょっと先まで行くよ」
渋る彼女を何とか説得した。その代わり行き先は買出し、が条件になってしまったが。それでも口実には十分だった。もう薄手のコートで十分、もしかしたら、帰りには手に抱えてそうだ。
「どこまで?」
聞きながらこの道の先には何があったかな、と頭の中で一人で歩く。ああ、確か赤い看板のスーパーがあったはずだ。きっとそこが今日の目的地なんだろう。
「あっちは今日は10%割引だから、」
きちんと理由のあった目的地に口だけで少しだけ笑ってしまう。確かに、そうだ。彼女は理由もなにもなしに遠くまで行かないだろう。連れ出す時に散々渋っていたのだから。
「そっち行かなきゃ駄目でしょ、直美くん」
距離が延ばしたくて、時間を長くしたくて、そんな理由だったら嬉しいのにと思ってしまった。彼女は決してそんな考えを持つ人ではなくて、そこが好きになったところでもあるのだか、でもそれでも。少しだけ期待してしまう。
そして、横でそんな考えを巡らしていたことに気付いてしまう人だ。すっと、手を差し出してくれた。左を歩く彼女の右手。
それで十分だろう。その手を指輪のある手で握った。
「じゃあいちご食べたい」
「安かったらね」
(07.03.30)
*龍精丸のあれこれ
  
「すみれさん、ちょっと、これ!」
テレビからは以前見た顔があった。
思わず、今すぐ職場に行くと言う彼女を呼び寄せて確認する。
「すみれさん!この人!」
揺れる画面の黒い海の中で、一際鮮やかな色を指差した。ほんの数秒前までその場に行けない悔しさと、そして今の自分自身では行けない場所だというもどかしさで占めていた。その人を画面越しに見るまでは。
「兵悟!」
それは特殊救難隊を目指す、と彼女に告げてから知った名前だった。そこには同期の隊員が居ると聞かされた。恋焦がれいてたと知らされた。それはまだ彼女と知り合ってもいない、指輪もしていない頃の気持ち。それでも、過去のことだと理解しながらも、嫉妬を持ち合わせていたのに。
「兵悟っ・・・頼んだよ」
彼女を見る。それから画面に視線を戻す。
この場所に行きたいと、この人に会いたいと、この人に追いつきたいと、子供じみた感情が沸いてくる。
夫婦揃って、同じひとに恋焦がれただなんて。
この人を選んで選んでもらえて良かったと、アナウンサーの歓声を聞き、ブラウン管の真前で手を取り合いながら思った。薬指だけが触れると冷たかった。
(07.03.28)
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