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いくら冬が終わった、と言ってもまだ陽の落ちた夜は冷える。普段意識することなく目に入る色付く花や街の鮮やかな色彩に改めて春を感じる。それよりももっと身近な場所で、例えばコンビニや自動販売機の狭められたホットドリンクのコーナーだとかに、もうコートはいらないと告げられている気がした。お酒です、と丁寧に注意書きがあるウィンドウの前に立ち2本手にする。覗き込むとひやっとした冷気に触れた。はというと、季節も気温も関係なくアイスのショーケースを眺めていた。 「今日はやめとき」 新商品、の文字を追う視線に少しだけ強引に手を引いた。 がさがさと音の鳴る袋の中には缶ビールが二本。それ以外は何も入っていない。いつもの帰り道とは少しだけ反れて夜の中を進む、月の出る日はまだ肌寒い。隣で疑問の混じった表情が見て取れた。がさがさと袋の鳴る音がした。 「花見するやろ?」 公園のベンチを指差してそう言った。納得した表情になった。 「もう葉桜だね」 もう終わりなのだろう、風が吹くたび白が舞う。人気のないベンチに腰を下ろし二つ分の音を響かせて買ったばかりのビールを開けた。 「細かい事言わんと、暗いしわからんやろ」 もう見頃は過ぎてしまった花を見上げて、それでもまだ咲いている花を見上げた。白い色の中に緑色が混じっていて、明るければそれも鮮やかな色に映るのだろう。 「夜の公園だね」 「せなや」 昼間はきっと賑やかなのだろう。桜の名所というわけでもなく、さして広くもなく、よくある住宅地の公園のひとつ。喉を鳴らしながら返した。 「中学生みたいだよね」 「せやな」 隣に座るは少し笑いながら彼女の分の缶に口付けて喉をならす。つられて少し笑いながら返した。 「ビール持ってるのにね」 「お花見やからな」 手に持つそれを掲げて乾杯、とぶつけた。グラスのように甲高い音は鳴らず間抜けな音が鳴った。 「中学生みたいだよね」 「それにしてはえらい老けとるなぁ」 矛盾した行動にお互いの顔を見合わせた。夜中の公園で二人、花見だという理由をつけても今は間違いなく二人とも不審者だろう。歳に見合わず、なんて安上がりな花見なのだろう。 「進さん、じゃあブランコ乗ろうか!」 「なんでやねん、酔っぱらいか?」 「中学生みたいだから?」 「酔っぱいやのに?」 三度も口にした台詞に半ば呆れて、随分と軽くなった缶を置いて立ち上がる姿に後を追う。残りの二口を飲み干して、ついでに彼女の分も飲み干した。 「しゃあないから付きおうたろか?」 「ビールは?」 「あんなんで足りるか」 「お花見は?」 「ビール飲んだやろ」 ベンチには空き缶が二つとコンビニの袋とそれから鞄が残っていて、ブランコはちょうど二つ開いていた。時折目に映る白い花に散る姿に、花見と呼べない花見をして、また来年があるかと思った。錆びた金属の擦れる音が聞こえた。 (07.04.16) |