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「いつもそんな笑ってなくてええんやで?」 空元気も元気、という言葉の通りに必要以上に笑い顔を作るようになった。私もそれなりに、日々を生きているからにはいろいろあるからで。それでも彼の前ではすこし、油断してしまう。他の誰の前でも私は笑顔で居る自信があり、実際に笑顔を通してやってのけている。それなのに、違和感のある笑顔を向ける私に無言で頭を撫で続け、挙句の果てにこの台詞。敵わないな、と思った。 「…ありがとう」 あと一歩進むと泣いてしまい、あと一歩下がると笑顔になる。そんな入り混じった不恰好な顔になってしまった。それ以上の何か、を口にすると間違いなく私は一歩進んでしまう。そうなるのが容易に想像できたので、ありがとう、と一緒に出てきた単語はそのまま喉に押し込めた。飲み込んだ口の奥の首の辺りが痛い。気を抜くと本当に泣いてしまいそうだ。出来るだけ何も考えないようにして、私の中のこの感情の波が過ぎてくれることを待つ。 「ー、」 何か言われるのを待っていて、でも何を言われるのも怖くて、彼の言葉を遮って言葉を重ねた。 「どうしてわかったの?」 自信はなくてもあったのだから。判りやすいのだろうか、それこそ恐れていた言葉になりそうな気がして少しの後悔に目を伏せる。矛盾した欲求、知りたいのに全てを知る勇気はなくて蓋をしておきたくて曖昧さに浸かっておきたくて、それでも貴方の言葉は知りたいと思う。貪欲さ。 「のことは何でも知ってるで、すごいやろ?」 また、頭の上に乗せた手からじんわりと熱が伝わる。後で鏡を見ないと、と思うほどかき混ぜられた。敵わない彼の敵わない言葉に反対の場所で涙が出そうになった。 「すごいね」 彼につられて誤魔化すよう笑みで返した。誤魔化されるように笑みになった。 「すごいで」 今度、私が同じ台詞を言ってやろう。その時彼はなんて言うだろうか?今度、のいつかを想像してこっそりと覚えておこうと決めた。 (07.04.07) |