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悪いなぁと謝りながらも、許してもらえないとは決して思いもしていない。その顔はもう何度目にしただろう。言ってしまえば、私達はそんな小さな事を気にする年齢ではなくなってしまった。もしくは、気にならない程の時間を共有してきた。 後者であると勝手に一人で納得して、紅茶のあたたかい香りを吸い込んだ。 「進さんはこういうお店平気なの?」 ざっと見渡すと、男性客は目の前に座る彼しかいなかった。周りからは賑やかな声が聞こえる。そのどれもが高い声で、そのトーンに少し、わがままを言ってしまったのかもと思ってしまった。 「んー別に平気やで?もうおっさんやしなーそんな事気にするぐらい若ないし」 私の心配は杞憂で終わってしまった。言いながら彼は小さいフォークで苺を突き刺した。色とりどりのショーケースの前で悩む私の横で、あっさりと決めてしまったショートケーキ。赤い苺はその天辺で自己主張していた。 「まあ、流石に男同士は厳しいなあ」 恐らく想像してみたのだろう、苦笑いして、私にとっては大きすぎる一口を口に運んでいた。 「進さんは誰と行くの?」 それは度々、彼の会話の中に出てくるあの人なのだろうか。答えはくれなかったから、代わりに私のミルフィーユを一口差し出した。 「後は何がええ?」 2枚の白い皿が空になり、そういえばどちらも苺だった、と思っていた時だったから。思わず、まだ食べるの?と聞き返しそうになってしまった。彼の指す何が、はわからなくても、そうではないとは判ったから。 「からチョコとケーキ作ってもろたから、もうちょいお返しいるやろ」 その単語に思い当たる。1ヶ月前の出来事だ。そういえば、此処にはホワイトディだから、という口実で足を運んだ。もっとも、過ぎてしまった14日は仕事で終わってしまっていたが。数日前のその日までは、きっと何かしら装飾だのギフトセットだのと並んでいたのかもしれない。代わりに今は季節限定の文字が並んでいた。 「おっちゃんに何でも言ってみ!」 歳の所為にしたくはない、と後者だと決め付けたばかりだと言うのに。彼は私よりも先に認めてしまっているようだった。それが男女の差なのだろうか。それでも、折角の申し出に思いを巡らし、お返しの候補が出ては端から消えていった。欲しい物は沢山あっても、貰いたい物、というのは咄嗟に出てこない。 「あ、」 ひとつ、思いついたものがあった。 「…ねえ笑わない?」 そう言ったところで、きっと彼は笑うだろう。 「…腕枕、して欲しいなあ、」 ああ、やっぱり、声には出さないで口元が笑っている。 「そんなんでええんか?」 安いもんや、と言うから付け足してしまった。 「一晩中ね?」 「…任しとき」 (07.03.21 遅れ気味のWhite dayの日) |