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きっかけは本当に些細な事だった。 ありふれた言葉で例えるならばそれはまるで空気のよう。そこに居ることが当たり前で、隣に居ることが心地好い。ひとりよりもふたりが楽だなんて、それこそ正気じゃないとも思う。それでも、もう沈黙でさえも苦ではなく、それどころかその空気が好きだなんて。 狭い部屋には2人分の呼吸と空気があった。 もう食事も終わり、アルコールも片付け、ぼんやりと点けっぱなしになっていたテレビを眺めていた。定位置だと言わんばかりに、左隣を陣取ったはドラマに釘付けになっている。毎回欠かさず見ているのだと、定時にチャンネルを変えながらが言っていたのを思い出した。それはもう30分以上も前の事だったが。テレビと同じ壁沿いにある時計は、さほど目線を変えずとも確認できた。所々に丁寧に解説を入れてくれるの言葉を聞き流しつつ、ゆっくりと流れる時間を楽しんでいた。 急に、テレビから流れてきたコマーシャルに釘付けになっているが居た。先程までは、コマーシャルに入ると何かしら話しかけてきたのに、だ。それも今何かを話しかけて、そこで止めてまで、動けなくなったかのように見入っている。つられて同じ画面を見る。携帯会社の宣伝だった。たかが電話の宣伝だった。 「なー、」 思い立っただけだった。簡単に言えば釣られた、のだろう。そのうまく出来たコマーシャルに。だからといってその商品を買いはしないだろうが、まんまと企業の戦略には乗せられている。 「おまえサイズいくつやねん?」 あえて、何が、とは言わなかった。気恥ずかしさも合わさって顔はテレビに向けたままで、でも意識は左にあった。がもたれ掛かっている左側に急に体温を感じた気がした。 「え?」 あ、振り向いた、横顔を見られた、視界の端で感じる視線。 「薬指の、」 左手の、までは伝えなくても今見た映像が物語っていた。たった数十秒前までのように動かないが居た。 「知らんかったらいつか指輪買うとき困るやろが」 少なくとも、画面の中の主人公よりはちゃんとしたプロポーズが出来るように、と声に出さずに付け足した。暫くの沈黙の中、とっくに続きが始まってしまったドラマだけが音を出していた。返事を返さないまま、は額をこつん、と左肩に乗せてきた。 「まあ、ええわ。サイズ直せるやつにしとくわ」 そう、勝手に答えを出した。返事のないこの続きをどうしようかと、そろそろドラマも終わりそうだ。赤い顔、それを隠すようにはそこでやっと半分だけ顔を上げた。 「それはお給料の3か月分?」 「…手取りで負けてもらえるか?」 返事の代わりに口付けられた。一番近い左頬に。 それを肯定の返事だと受け取ることにした。 「やからもうちょっと、その指空けて待っとき」 (07.03.09 ソフトバンクの電話でプロポーズしちゃうあのCMです) |