「進さん、進さん、バレンタインしよう!」

月初めの非番の日に、買ったその場で貰ったチョコレートを思い出した。封は開けてしまったものの、まだ少し中身が残っている。きっと当日は会えないから、と随分早くに終わらせてしまったイベントだと思っていた。

「この前もろたのあるで?」

チョコレートの箱に視線をやる。テーブルの上に置いたままになっている蓋の下には、2粒だけ残してあるはずだ。確認するように問いにしてみるも、

「だって手作りがないと、本命チョコにならないでしょ?」

あまり理解できない答えが返ってきた。
「そういうもんなんか?」
肯定の意味に取ったは、
「じゃあ、決まり。ちょっと待っててね」
そう残して電話を切ってしまった。



それからしばらくして、はがさがさと音を立てて入ってきた。スーパーの袋を提げて来た。

「ちょっとキッチン借りるね」

冷蔵庫から卵と牛乳、それから小麦粉と砂糖を並べていた。勝手知ったる、といった様子に申し訳程度に付いているキッチンを占領している。

、おまえ何する気やねん」

手作りだとは知っていた。が、まさか、ここで、とは思ってもいなかったから。第一、道具も材料もオーブンですらないのだから。

「ミルクレープすき?」
「…クレープ?」
「だって進さんのお家はオーブンないもの。これならフライパンで作れるし材料も揃っちゃうから、」

泡だて器は持ってきたから、と得意気に見せてくれた。あとはお玉とボールとフライパンがあれば十分、だとか。

「出来たら一緒に食べよう?」

言いながらそれらの道具も全部、棚から出されていた。やはり空ける場所を迷うことなく。




ワンフレーズ




それなら、と出来上がる過程を見守る事にして。

、」

名前を呼んで振り向かせて。

「なにー?」

口に放り込んでやった。彼女のために取っておいたチョコレート。それは一緒に食べようと残しておいた最後の2粒のうちのひとつ。

「ん!んーんー」

全く同じ事を考えていた、そう知るだけで十分すぎるくらい満たされてしまう。どうしたものか、と思い、悪くないな、とも同時に思った。

「それ、出来るの待っといたるわ」





(07.02.05 St.Valentine's Day 『恋人宣言』の後日とか)

close