そんな中、雨音に混じって足音が聞こえた。カツカツと甲高い音はヒールのある証拠で女性特有のもの。もしかして、と思ってしまい音に意識を持ってゆく。近付く足音、前を通り過ぎることはなく、一番近い位置でやんでしまったその音に、予感は確信に変わる。
急ぎ、鍵を開け扉を開ける。

「…雨宿りしにきました、」

そこには間違いなくの姿があり、外は冷たい雨が降っていた。雪になり損ねたみぞれのような天気で、扉を開けただけでも冷気が容赦なく入ってきた。

「洗濯しにきました、凍えてきたので温まりにきました、コーヒーが飲みたくなりました。」

泣きそうな表情に見えたのは、きっと彼女が雨で濡れていたから。傘も持たずに居たのだろう、コートの色がすっかり変わってしまっていた。水分を含んだ髪が張り付いていた。

「えらいぎょーさん用事があってんなぁ」

長い、言い訳じみた台詞を吐いてきた。を促すように手を引き入れ、廊下から玄関へと彼女を進めた。そこで腕を伸ばして扉を閉め、外の雨は少し小さな音になった。

「どれだったら口実にできる?」

玄関の床にも染みを作りながら、苦笑いと一緒には言った。

「雨やむまで居ったらええし、洗濯終わるまで待っとったらええし、風呂も沸かしたるし、コーヒーも淹れたるから、」

言いながら動いて、真っ白の大き目のタオルを取り出しながら、

「とりあえずこっちきい」

そう言ってバスタオルを広げてやるとは遠慮なく飛び込んできた。こうなる事を彼女は知っていて、そして自分も知っていて。濡れた髪を服を拭きながら、タオル越しに抱きしめた。すると小声で、その上聞こえにくくて。

「…どうしても進さんに逢いたくなったの…」

子猫が擦り寄ってくるように、顔を押し付けて。それも先程よりも湿ったタオル越しに。

「お化粧取れちゃうや」
「もう取れとるで」

確かめるように覗き込む。もう口紅は取れていた。近付いて口付けて、まだ少し冷えたままの唇は笑みに変わっていた。

「…進さんのいじわる」





理由なんかいらない





(07.01.04)

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