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最後の記憶を手繰り寄せる。仕事をしていた、家に帰ってきた、コンビニの弁当を食べた、確かにそうだ。なら今ここでけたたましい音を立てているのは?ああ、そのやりきれない音は掃除機の紙パックを換えないといけない。それも轟音に混じり鼻唄まで聞こえてくる。何の冗談かと思い、もう一度目を閉じる。次に開けたときには何もなかったかもしれない。と期待した。 「…なんてがここに居ると?」 目を開けるより先に口を開いた。掃除機の音で掻き消されるだろうに。眼鏡の代わりに目を細める前に睨みつけてやった。 「…やぐらしか…」 案の定届かなかった声に不満を漏らす。このまま布団に埋まってしまおうとも考えたが、それは出来そうになかった。この部屋は小さすぎて音で溢れている。仕方なしに、枕元に置いてあった眼鏡を手探りで取った。 「あ、メグちゃんおはよー」 それに気付いてか、上から声が降ってきた。丁寧にスイッチを切ってから挨拶をするは、見下ろしていて、それと一緒に顔に髪がかかっていた。 「なんて?」 届かなかったはじめの問いをもう一度、今度は聞こえると確信して見上げて言った。 「鍵あいとったよー」 玄関を指差してそう言った。それは答えとしては正しい、だけど欲しい答えではなかった。まだ起きていない体制。布団の上で天井を見上げて。でもその間にはの顔があって。上下逆さに見えるはいつもと同じなのに違って見えた。 「そがんこと言わんて」 はオイの横に腰を下ろして座り込むと、先程よりも近くなった距離。それでも真上を見上げるのには変わりなかったが。 「メグちゃん嬉しいくせにー」 頬に指を突き刺された。の手は冷たくて、触れたところから熱が逃げていった。にこにこ、と音まで聞こえてきそうな程楽しそうに笑う顔。嬉しいのはオイじゃなくてなのに、と覚めていない頭でぼんやりと思った。 「ばかにせんね」 「おはよーは?」 言い切る前に先に言われた。朝の挨拶を強要された。 「不法侵入たい」 その手を柔らかく払いのける。 「メグちゃんおはよー」 食い違う会話にお互い譲らない。3回も降ってきた目覚めの言葉に突き刺さる視線が痛い。何を言っても先に進みそうになくて、その一言を彼女は待っていた。 気に入らない。でも悪い気はしない。 「…おはよう」 満足したように笑い返された。それだけで満足するが不思議で仕方なかった。 再びスイッチが入れられて、部屋に音が戻った。限界を訴えている掃除機は、紙パックを換える必要がある。 起されるまで起き上がれない、
微睡みの中で
(07.03.01) |