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いつの間にかこの部屋に居座っている彼女。同じ空間に2人で居るのにお互いはお互いにひとりでいる。は特に用件もすることもないのだろう、先程から人のテレビを勝手に点けて変えて、雑誌を取り出しては閉じていた。要するに落ち着きがない。 「メグちゃん、お腹すかへん?」 何か作るよ?と得意気な顔を作って聞いてきた。顔に書いてある台詞を読み取って、気付かない振りで返す。 「さっき食べたばっかたい」 やること、の候補がひとつ消されてしまったは、残念だといった小さな唸り声を上げていた。とてもわかりやすい。それを確かに聞き、から見えないように横顔にする。おもしろい、と口角が上がる。 「メグちゃーん」 呼ばれる名前には振り返らずに、パソコンの画面に視線を向けたままで何も返さず。がいま、何を要求しているのか、手に取るようにわかってしまう。だからこそ、そのまま勝手に名前を呼ばせていた。 「メグちゃんってば」 構って欲しいとアピールするはとてもおもしろい。そしてそれだけではない、気付いているその名前を認めたくはなくて、気付かない振りをする。この感情の名前は知っている。とても単純で、はそれをいとも簡単に口にする。 だからの動きも放っておいた。移動する足音が聞こえ、真後ろに立つ気配も感じる。手を伸ばせば届く距離、それでも意地になって振り向かない。この先が知りたいから。 「折角私がここ居るのに、」 声と一緒に彼女の腕が視界の端で見えた。銀色の細い時計は自分の持つそれとは異なり、キラキラ光って見えた。 「そんなんばっかり見て」 途端に世界がぼやけてしまった。目は必死にピントを合わせている。正直な体の反応に今まで確かにここにあった眼鏡が無くなってしまった事に気付く。 「、何しよらすか!」 ハッキリしない視界で振り返る、と彼女の得意気な声が降ってきた。 「メグちゃんの真似!ねえ、似とる?」 両の手で押さえた黒いフレーム。無くした眼鏡は彼女の中心に居た。 「チャンはそがんの似合わんとよ」 わざとらしく違う呼び方で声を変えた。目の良いに違和感に返せと手を伸ばす。するとかわされ、反対に手を掴まれてしまった。 「眼鏡がなくても私がわかる?」 レンズは彼女の近くでこの近い距離を隔てている。悪戯の成功した子供の声とお互いにぼやけた視界。 返事の変わりに左手で右の頬を撫でた。 (07.02.24) |