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「進さん何か飲んでもいい?」 は返事を待たずに冷蔵庫を開ける。この部屋はもう彼女を受け入れてしまっている。とうの昔に馴染んでしまった空気に違和感はなくなってしまった。 「ええけど、牛乳しかあらへんで?あとは酒か水しか、」 扉を開け放ったままで、中を覗き込んでいるに返事を返す。たいした物は入っていない筈で選ぶ余地もないのに、手を放さないのはきっと不満があるから。 「じゃあお水がいいな」 選択肢にあるのに、そこにはなくて。じゃあどこにあるの?と言う顔と、冷蔵庫の扉が閉まる音が同時に聞こえてきた。 「水道水やで?」 そう返すと、ああ、やっぱり予想通りの表情。 「…牛乳頂きます」 扉を引く、同じ音が聞こえた。 「進さんも飲む?」 グラスに注ぎそれを置き、代わりに直そうとしている。その場に近付いて行ったのだからそう言われた。の少し後ろに立つと牛乳パックを持ったまま、体半分で振り返ってきた。 「おう、貰うわ」 手を伸ばすと差し出された牛乳を受け取り、また冷蔵庫を閉める音がした。牛乳ひとつに開け閉めしすぎだと説教されそうだったが、一番言い出しそうな本人がそうしているのだから、と気に止めないことにした。手に持つ重さは飲み干してしまうか、それとも残しておくか迷う量だった。が、とりあえず口を付けた。 「進さん、お行儀悪いです」 途端にいつもと違う口調で、の空いていた手には新しいグラスがあって、反対の手には最初に注いだグラスがあって。せっかく用意したのに、という視線が刺さる。こくっ、と咽を鳴らしてからいったん口を離した。 「どおせ男の一人暮らしやねんから、そんなん気にせんでええやろ」 片手を振ると水の音が鳴った。 「じゃあ、ひとりじゃなかったら気にしてくれる?」 そんなにグラスを使わない事が不満だったのか?と一瞬思い、言葉の意味に飲もうとしていた手が止まる。彼女は両手で抱えたグラスに口付けて、こくっと咽を鳴らした後に、 「…いつか一緒に住みませんか?」 視線を外してこう言い放った。2つ目の解釈は間違っていなかったと告げられた。 「そん時は考えんでもない」 やっぱり視線を外して誤魔化すように飲み込んだ。2人揃って、それも冷蔵庫の前に並んで立ったまま牛乳を飲む姿は、どう考えても不自然だった。 (07.02.15) |