「…ブラックモンブラン」
 好きでしょ、と言われた商品名を読み上げる。それは見覚えのあるパッケージ。安っぽい絵柄とネーミングのアイス。正確にはアイスミルクに分類されるそれを最後に見たのはひよこ同期の出身地が近い彼が大量に持ってきた時のこと。地方でしか売られていないローカルなその商品は久しくお目にかかってはいなかった。
「九州物産展?なんかねコンビニでフェアをやっててね、」
 訊ねてもいないのに説明をされた。言い訳のような言い方に、今日の星野君は良く喋るなぁと短絡な発想をしてから、もしかしたら今、彼がそう言ってしまうほど自分は酷くおかしな、彼が理由を言ってしまうような顔でもしているのかもしれないと思い至った。
「それ、盤が好きだったよなーて思って」
 わざわざ買ってきたらしい、それもふたつも。わざわざ階段をひとつ分余計に上がってこの部屋まで寄って、事前にメールで打診してまで渡しに来たらしい。
「…別に好いとうわけじゃなか」
「うんうん、わかったからとりあえず冷凍庫に入れなよ」
 溶けるから、と半ば強引に体を反転させられ、弾みで玄関のドアを支えていた背が離れる。そこで初めて、彼ととても近い位置に立っていたことに気付き、気付いたときにはもう離れていった。
 支えを失い、自然な動きで閉まろうとするドア。開いた面積が減っていく、同時に外の空気が薄くなる。
「じゃあ、おやすみ」
 あと少しで消える隙間から、星野君の声が滑り込んでくる。勝手にチャイムを鳴らし勝手に押し付けて勝手に一日の最後のあいさつを言ってのけて去ろうとする、それが少し気に食わなかった。ただそれだけなのだと言い訳をする。
「それはなんね?」
 彼だけに届けるには大きすぎる程の声は自身でも驚くほど、声の音量の調節に失敗してしまった。反射的に止めたドアから覗く視界はまだ影が残っていた。押し開けると振り向いた彼が居た。




歩くような速さで




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